無期迷途という全方位にセンスが飛翔していっているゲーム


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アプリゲーム『無期迷途』。ざっくり言えば魔物化した人間や異能力者「コンビクト」が蔓延るスラム街で、そのコンビクトらと一緒に戦うタワーディフェンスゲームである。

 


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タワーディフェンスバトルをしながらチェイスをしたり、チェス風のステージが登場したりとステージギミックも豊富で、一貫して「レベルを上げて物理」とはいかないハードなプレイを楽しませてくれる。

 

 

仲間コンビクトは「逮捕・収容」して「取り調べ」等をすることでそれぞれの背景を掘り下げながら拘留、もとい交流を深めていく。と言うとなんだか邪悪な匂いのする言い方だが、実際のところはまあこちらのイラスト方に示されているとおり

 

 

だがその世界観はやっぱり醜悪でダークで残酷。

そして、そんな世界を生きる登場人物たちを巡るシナリオが、筆者が今までに触ったスマホゲーでダントツ、あらゆるキャラクターゲームの中でもトップクラスと思えるくらいに良い。


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そこに登場する「逮捕者」たちは、

コンビクトになったことを理由に家族から存在を抹消されたお嬢様、

倫理もお誉めの言葉も自らの腕をも捨ててでも患者の救命に務める医者たち、

仲間の死を認められず手作りの集団墓地という「家」で夜を眠る葬儀屋、

なんらかの事情で作家人生を閉ざし評論家となるも今度は知人を追い込み死なせてしまった女、

とある少女の病死体になんらかの因果でコンビクト──第2の生が発現して動いている「死神」、

生まれながらのコンビクトとして機関に研究され尽くされ、命の有余と感情の在り処を奪われた少女……

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そんな彼女たちと物語を重ねていくのだが、決して「局長」に絆される者ばかりでなく、こちらを裏切りつつもギリギリで協力関係に落ち着くものや、明らかにこちらを利用している者、最後まで歪んだ心を晒したまま平行線に終わる者も。むしろ個々の事情からの物語の回し方、着地点が光る作品だ。「最後はみんな局長(プレイヤーキャラ)が大好き!」とは当面ならないし、それぞれの過去の傷や所在の歪みは拭えないまま大なり小なり共闘していく。そのバランスの上手さがそのまま「キャラクター一人一人の扱いへの丁寧さ」だと言っていいだろう。

 

 

ひとつ紹介したいのがこのシナリオ

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ルリエカという少女の話で、『彼女の父はいつもゲームを用意してはルリエカを勝たせてくれた。ある日父に「ここに隠れたまま、時間まで出てこなかったら勝ち」というゲームを挑まれたルリエカ。難なくそのゲームに勝利したが、それは父が外敵による襲撃から、ルリエカ一人だけでも守るための策だった』という話。

気づく方は気づくと思うが某名作映画のオマージュである。その映画の、生き残った側の視点と その後である(勿論作中世界は違うが)。そして生き延びた彼女の物語はまた別の物語ともリンクしながらこの作品の中で続いていく。映画『ライフ・イズ・ビューティフル』にそこそこ思い入れのある筆者は、このシナリオを読んだ後放心状態になった。私からすればその映画へのアンサーであり精神的な補完にも近しいものを感じたのだ。

 

 


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男キャラも数は少ないが、狡猾で頼れる他所様のNo.2や、落ちぶれ飲んだくれから立ち直っていくオッサンとイイキャラが揃っておる。いや下のオッサンの再起話をフルボイスで見せてしっかり盛り上がるアプリゲー、何?

 

 

 

そしてプレイヤーキャラ「局長」(性別選択可)の存在感がとんでもない。

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誰より先に危険に飛び込む。なんなら最新イベントでは「局長は先にダンジョン奥に入ってしまっている」という状態からスタートし、中盤になって危機一髪の場面で合流するセンパイキャラみたいな出てき方をしてきた。間違いなくおまえが主人公だよ。「ディフェンスゲー」という文字通りキングを守るはずのゲームでその突撃力の持ち主なのがまた趣深い。

それが悪目立ちとならないくらい機転や言葉も利く奴で、動けば確実に物語を進展させる。私がこの「局長」が好きなポイントとして、具体的なシーンは伏せるが “状況に応じて嘘や諜報などもさらっと流布する” という点と “不意に人を殺めてしまい罪の意識に苛まれていく描写がある” という点がある。制作のとにかく「青臭い綺麗事を宣いながら自分は手を汚さないか、せいぜい猪突猛進しかできないタイプの主人公君にはしない」という強度の意志を感じる。一方ででは感情表現がトゲトゲしかったりするのかと言うとそうでもなく、むしろ成熟したリード力をもってパワフルな行動力や諭す言葉に説得力が宿っている主人公である。

むしろそんな別作品ならダークヒーローになっているような彼or彼女をもってしても、この壊れた世界では「青い理想主義者」と周りから言われてしまうのだ。言い換えるならば主人公なんて元々それくらいで良いのである。

 

 

あとイラストもなんかどんどん美麗になってきたな、元々そうではあったけど。

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ここまでが無期迷途の基本的な魅力──だった。直近2つのシナリオイベントが来るまでは。

 


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以前からディフェンスゲーム面でのアイディアをふんだんに取り込んでいた無期迷途だったが、前2つのイベントではシナリオパートには “真面目な推理ゲー要素” や “アドベンチャー要素” なども盛り込んできた。

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「読み物を置いていくだけ」の作品にはせんぞという意思を感じる。下のアドベンチャーパートでは「3つのチームに別れていて、どのチームで踏破するかでシナリオの内容が変化する」という軽くロマンシングなアプローチも披露した。

どれだけシナリオが良かろうがゲーム中に読むという行為はそれ単体では「作業」であり、一方でゲームだからこそできる細かい部分の見せ方や多角的な表現がある。ゲームならではの没入度の取り方がある。

「ゲーム」はどこまで行っても「ゲーム」であり、またそれがシナリオ表現においても武器なのだ。私はそうあってほしいと思う。

 

同時にBGMの満足度・演出力もどんどん上がってきた。


Path to Nowhere/無期迷途 Music Original Soundtrack Night Fall - S1 Battle Pass Zoya - YouTube

 

 


Path to Nowhere OST: Dreamy Bubble: 真の戦い - YouTube

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まさかのDQFFパロも。爆笑してください。

 

 


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Path to Nowhere OST: Night of Wonders: 寂静之棺 - YouTube

Massive AttackみたいなBGMに、抽象絵画が並ぶ背景、都市伝説から浮かび上がってきたような何者かたち……例えるならさながら平常心で進行していく『ムーンサイド』。先のアドベンチャー要素などの充実と共に、制作サイドの趣味やセンスが爆発しているような最新シナリオが開始されている。

当初から萌芽は見られたものの、この数回で飛躍的にハイセンスな方向に向かっていっているのを実感する。遊んでいる手触りやボリュームも、シナリオや数々の演出も、一気に開花していっている感覚がある。

 


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「ダンス(作品)とは観客とダンサー(作家)における美しさの理解の交流だ」

こんな言葉がすらっと挟まってくるのが無期迷途。私からはこの作品の魅力についていま文章化できることはこの程度が限界だと思うが、このほとばしる魅力を余さず理解し受け取れる器でありたいと思う。

 

 

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最高にキマっていたエンディングの演出とデザイン

 

 

 

相変わらずながら、始まって間もないアプリゲームをどこまで評価していいものかは分からない。が、少なくとも現時点で、『無期迷途』は有象無象のなかに埋もれてはいけないゲームだと心より思う。この無期迷途に大きな期待を寄せていきたい。