BUCK-TICK アルバム紹介 2018年作 『No.0』

 

BUCK-TICKを好きな人には勿論、彼らをよく知らず「結局どういうバンドなの?」と思っている方々に読んでもらえたら嬉しいと思いつつ、拙いですがこれを書かせていただきました。

 

 

 

 

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『No.0』

音楽を “アート” として触れるなら「耽美で濃厚なロック・アート」そのもののような、「死の物語展」または「走馬灯のロードショー」のような音楽アルバム。

 

 

彼らがデビュー31年目にあたる2018年に送り出した21枚目のオリジナルアルバム。この作品から、BUCK-TICKは最新が最高傑作」という言われが決定的なものになった。その言葉は決して公式から持ち出したフレーズではなく(むしろ一度も言っていないとも思う)、アルバムを聴いた往年のファンの間からどんどんと定着し、今やBUCK-TICKの作品の話になるとまず最初に届いてくるような合言葉とまでになった。

 

さてそんな傑作を送り出すまでのBUCK-TICKは、それに違わぬ好調と発展の軌跡を進んでいた。バンドはデビュー31年目を迎え、メンバーが50代を迎えた年季にも関わらず、である。

2009年作『memento mori』で「バンドグルーヴによるロック・サウンドと、ゴシックと、死と生を真っすぐに見据えた姿勢」といったバンドの基本軸を新たに再確認・再集約し、そこから2014年には「シュルレアリスム」をテーマにしたアルバム『或いはアナーキー』を発表。ダークとエレクトロと空間表現、そして心象的な歌詞世界によって独創性を極めた新たな世界観を生み出す。その翌年にはLUNA SEA主催の大型フェス「LUNATIC FEST.」に出演、伝説とも呼べる圧倒的ステージで目に見える程に新規ファンを大勢獲得していった。2017年にはデビュー30周年を祝うお台場特設公演2daysを開催。彼らは常に淡々としていて多くを語らなかったが、バンドは完全に更なる覚醒へと向かっていた。

アルバム『No.0』に先立った先行シングル曲『BABEL』の時点で、音の威力や鋭さが更にパワーアップし、その方向性は得意のゴシック&デジタルサウンドを見せつつも今までになく高いクオリティに到達しているのが存分に伝わってきていた。

 

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そうして遂に現れたアルバムの印象は、黒く重厚かつ耽美でメロディアスなサウンド。そこに「オフィーリア」や「サロメ」などの死に纏わる古典物語やら、猫の歌(!?)やら、稲垣足穂的シュール世界やらが並び、最初と最後を「戦火と主人公の死」を思わせる楽曲で括ったアルバム。

また前々作『或いはアナーキー』以降演奏に徹しつつもよりシアトリカルな表現やステージメイキング全体で魅せるライヴパフォーマンスを推し進めていたBUCK-TICKの、観劇的表現としての当時の到達点ともいえるアルバムにもなった。

 

そして、BUCK-TICKの音楽性への評価において改めて「櫻井敦司の表現力」への注目度が高まっていくきっかけとなったアルバムだったとも思う。厳密には前々作の収録曲『無題』のライヴステージングから彼への再注目は始まっていたのだが、そこで手にした新境地がいよいよ作品全体を覆っていく決定打となったアルバムが本作だったように思える。

 

 

──そろそろアルバムの封を開いて覗いていきたいと思います。

 


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零式13型「愛」

零式13型「愛」


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1. 零式13型「愛」

 

物々しく何かが起動するようなギターノイズから、爆音のように始まるリズム、一気に広大かつ暗黒に広がる世界。まさに一曲目に相応しい荘厳なオープニング・ナンバー。

「胎内大宇宙」といった歌詞からは生命の誕生を思わせるが、そのおどろおどろしく不気味な重みはむしろ「最期への刻」であるかのよう。もろに死へと向かって歩いていくようなイメージだ。

『零式13型「愛」』という兵器のようなタイトルの意味については直接の解説はされてはいないが、参考資料としてよく挙げられるもので言えば、第二次大戦に使われた「ゼロ戦」の設計者がBUCK-TICKと同じ群馬県藤岡市の出身だったりする。

 

BUCK-TICKのゴシックなナンバーで筆者が一番好きな曲を選べと言われればこの曲を選ぶ。美しいどころかおぞましい、ただただ絶対的な驚異に覆われたような楽曲。そのなかにほんの少しだけ情緒を伝わせるような旋律が深淵へと誘う。

書きながら「そういえばworld's end girlfriendと親和性高そうな曲だな」とちょっと思った(彼がBTのフォロワーだと知った時の大きな納得感よ)。

 

コバルト色  空 涙が溢レル

命ガ  モウ  ドクドク  ドクドクト

胎内大宇宙 君ノ名前ヲ

「愛」ト言ウ

 

 

 

美醜LOVE

美醜LOVE

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2. 美醜LOVE

 

インダストリアルの薄暗さも漂う肉々しいバンドロック。BUCK-TICKのアルバムはご丁寧に1,2曲目に比較的純粋なバンドサウンドらしい曲を置いてくることが多く、本作ではこの曲がそれにあたる。「死が切れ味を増やしておまえを愛してるぜ」というフレーズだけでBUCK-TICK流エロスとタナトスを証明していく。

 

醜悪なのさ世界中 罪深き連中さ

でも君は素敵 だから溶けて溶けて

 

アルバム当時、みだりに周囲を傷つけない櫻井さんの歌詞にしては珍しく攻撃的に聞こえてドキッとしつつ、「でも君は素敵」と続けるところに彼のバランス感を感じた。が、この厭世の怒り的な歌詞性は後の『Villain』『ワルキューレの騎行』とどんどんと鋭利な言葉を増しながら続いていったように思う。

一方で主題の面では、そんな世への嫌悪や死の匂いと反発しあうようにSexを咆哮する。

この「美醜」というテーマは、アルバム終盤の『BABEL』 へと繋がっていく。

 

 

 

GUSTAVE

GUSTAVE

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3. GUSTAVE

 

EDMに乗せて叫ぶ「NEW ROMANTIC!」。バタくさいノリに様々な音が縦横無尽に飛び交い、重たくも跳ねるリズムが心地よい。そしてそのサビの歌詞は

 

“Cat Cat CatCat Cat Cat CatCat Cat

  Cat Cat CatCat Cat's”

 

ええ……

GUSTAVEとはヒグチユウコ氏の「ギュスターヴくん」からとった名だそうな。まあでも、普通に猫の歌である。櫻井敦司だからね。

BUCK-TICKというバンドはどんなに重たいテーマの中でも詞・曲ともにユーモアを忘れないところに大きな魅力があるのだが、50を超えてこれをものにする魔王軍団に膝が崩れ落ちない同業者はおそらくいなかっただろう。猫を愛することが君に出来るか。

ライヴでは今井さんがギターで猫の鳴き声を再現していたのも印象的。

 

 

 

4. Moon さよならを教えて

 

先行シングルによる美しきバラード。バンドとしてこれが出来るのかというほど温かくも電子的な音像と空間性に満ちているが、それをしっかりバンド楽曲らしく聴かせる不思議さ。そして最終盤に躍動していくリズムと曲展開で一気に心が連れ去られていく。

 

筆者は先行シングルとしてこの曲が出た時には「アルバムの最後の方のバラードなんだろうな」と思い込んでいたのだが、実際には序盤の方に配置されて驚いた。──歌詞を読んでいくと、この曲は「いずれ “別れ” を知る子どもに対する母親の言葉」のような歌詞なのだなと思わされた。だからこそ序盤での配置なのかと。

……かつてのBUCK-TICKの楽曲に『Long Distance Call』という、「戦場へ向かう兵士が母親への最後の電話をする」という歌詞の曲があるのだが、その曲でいえば母親サイドからのようなものだとか捉えてみるとしっくりくるかな、と思ったりする。

BUCK-TICKの中でも筆者の大のお気に入り楽曲です。

 

 

 

薔薇色十字団 - Rosen Kreuzer -

薔薇色十字団 - Rosen Kreuzer -

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5. 薔薇色十字団 -Rosen Kreuzer-

 

作曲・星野英彦。「薔薇十字団」とは「15世紀頃の神聖ローマ帝国(ドイツ)に存在した、120年もの間不老不死の実現のために世界各地で活動を続けてきた秘密結社」だとか。

星野英彦といえば美しいバラード調の曲の名手として有名なのだが、一方でアルバムに一曲はノリノリの曲も毎回入れてくる。そして、極たまに「マジなの?」っていうくらい暴走気味な曲がある。その中の一つである。

冒頭の何が起こったのかと思うようなギターの音は、今井さん曰く「今回はイントロとかAメロを“お任せ”って書いてあって(笑)。“お任せ”って言ったなって、もうめちゃくちゃにしてやりました(笑)」とのこと。ちなみに櫻井さんも(ヒデは)何か最近、不協っぽいのを1曲入れてくるんで、多分、僕も同じ感覚でめちゃくちゃにしてやろうと思って(笑)。歌詞も“何これ!?”っていうのをやりたかったですね。」と。おお天才と神の気紛れ。

 

 

 

サロメ - femme fatale -

サロメ - femme fatale -

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6. サロメ - femme fatale -

 

物凄い轟音に硬質なリズムとシンセをガンガンと鳴らす大シアトリカルなファム・ファタールの歌。多分このアルバムで一番シンプルに耳が痛い。マジなのか星野英彦。(YOW-ROWのせいかも)

改めて語ろうとすると結構ラルクっぽい曲だな(『fate』辺り)と思ったが、残念ながらラルクの曲はこんなに耳痛くならないし、音のムードも物々しくない。アウトロのそれまでのBUCK-TICKにはありそうでなかったかもしれないダークロマンスなシンセが華。

何ならアルバム後半に置かれていてもいいというくらいにクライマックス感のある曲だが、これが前半部終了くらいの位置というのがアルバム全体を通した強大さを物語っている。

 

 

 

 

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7. Ophelia

 

春は誘って 君は風に舞って

花はそよいで 手招いて麗らかに

夏は夢夢 君は毒に酔って

極彩色 華やかな衣装で歌う

 

オフィーリアの歌。美メロ職人星野英彦の本領発揮。

雫が伝うような美しいイントロから始まるが、やはりBメロ〜サビにかけては他のアルバム曲にはないほど音圧が激しい。息もできない水の底に沈められていく。

 

季節は巡って 君は夢になって

夢喰いたちは やがて恋に堕ちる

君の匂い 死の香り

 

めちゃくちゃ好きな曲なのにアルバムツアー以降全然やんなくなったから筆者は泣いていましたよ。

 

 

 

8. 光の帝国

 

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トッチッチッチッチクチッカンッ! で始まるスーパー今井タイム。ここから3曲は作詞・作曲今井寿ワールド。軽妙であまりに気持ちよすぎるエレクトロサウンド稲垣足穂の影響を受けたシュルレアリスムな歌詞が乗る。ナイトポーターが視ていた巨大な歯車とアンモナイトの記憶の奥で動く錆びた夢の…

今井さんはどこかでクラフトワークYMOだかを「カチッと組み立てられてハマッた音作りが気持ちいい」と評していたが、その言葉をそっくり返したい全ての音の鳴りが気持ちいいエレクトロ・ポップ・チューン。こんなの好きにならないわけがない。逆にスカスカになってもいけない曲だからこそ、ユータさんのベースの活躍度が高い印象。

 

この時点でも全方位反則勝ちみたいな曲だが、なんと更にライヴでは曲中に櫻井さんがジョン・トラボルタみたいな

 

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↑をやりはじめて客席から「Fooooooo !!!」と返すのが恒例になった。何なんだよこれ。

 

 

 

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9. ノスタルジア - ヰタ メカニカリス -

 

タイトルの元ネタは上にある稲垣足穂の「ヰタ・マキニカリス」だとか。淡々とmachinaが駆動していくようなリズムサウンドに謎の言葉が流れ続けるポエトリーリーディング『ミシンと蝙蝠傘の出会い ダイナモが可動する』

実験的楽曲……と呼ぶにはポップサウンドに聴きやすく纏っていて、むしろ完成美が高い。

 

No.0ツアー前半では一応ライヴ中に演奏されていたのだが、ツアー後半にはアレンジされてオープニングSEになるという出世なのかハブなのかよう分からん異動をくらっていた。いやSE版もカッコ良くてお得だろ。

 

 

 

IGNITER

IGNITER


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10. IGNITER

 

今井作詞3曲目は過去作Mona Lisa OVERDRIVEのようなモードにNo.0の呪霊が憑依したみたいなテンションで特攻していくオフェンシブなナンバー。先2曲はややアルバムの中で独立しているイメージがあったが、こちらはラスト3曲へのリード曲の役割を担っているかのよう。

今作の今井作詞3曲は、エレクトロ・ポップ、SEっぽくてカオスな曲、突撃していくようなインダストリアルロックと、丁寧なまでに「今井ワールドはこうでしょう」というラインナップになっているのが印象的だ。

 

 

 

11. BABEL

 


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櫻井「バベルの塔の話ですけども、天を目指す、神に近付づこうとするのは愚かな所業だという一説がありますよね。その愚かの象徴が私であり、人であると。」

 

BUCK-TICKの2018年型ゴシックアンセム。かつての『十三階は月光』を彷彿とさせるが、当時にはなかった抜群の重量とノイズ、そして低音から高音まで覆い尽くす音の厚み。

何より最大のポイントは、これまでゴシック色の強い曲では「死への想い」を歌ってきていた櫻井敦司の歌詞が、この曲では明確に「生の賛歌」になっているところだろう。

 

今宵は 天を貫く

おまえのもとへ 我はBabel

喜び  悲しみ  怒り

欲望の果て 我はBabel

 

まさに詞・曲・音すべてにおいて「これぞBUCK-TICK」と言ったところ。

 

 

 

 

ゲルニカの夜

ゲルニカの夜

12. ゲルニカの夜

 

アルバム前々作からなる「シュルレアリスム芸術モチーフシリーズ」のような流れの、総締めにあたる。今井のデモの時点で「ゲルニカ」の題がつけられ、それを下に櫻井が渾身の詞を手掛けたという。

 

 

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櫻井「なぜピカソは『ゲルニカ』を描いたのか、その想いも薄々知ってはいたんですが、ゆくゆく掘り返してみたり…

 最近、間接的ではあるんですけど、僕は戦争反対ということをまず当たり前のように言いたいんです。それを作品として、歌、曲にするにはどうしたらいいかなと。

 でも、あまりにも自分からかけ離れたものは嫌だったんですね。そこでふと思い出したのが、地元・群馬県藤岡市に一軒だけあった映画館で、そこで生まれて初めて観た映画が犬の『ベンジー』だったんです。親子3人で。でも、2本立てのもうひとつが、前橋市の空襲を映画化した『時計は生きていた』という作品で、『ベンジー』がどっか吹っ飛んじゃったぐらいインパクトがものすごくて、ちょっと動けないというか。金縛りにあったかのような。

 (…)そういった体験の中で、空襲、ゲルニカ、兄、映画館とつないでいったら、こういうことになりました。」

櫻井「言葉はすごく考えて選んで。不快感を与えないように、かといって誤魔化さずに。」

 

 

お菓子が欲しかったけど 一枚のガム  半分つっこ

ママがそう 一緒だったら 膝の上が良かったな

 

突然 空が狂い出す

突然 僕らは消えた

 

離さないで  千切れちゃう 泣いたり嘘ついたりしないから

許して下さい  ねえ神様 何でよ 何でよ お願いだよ

 

ああ 僕はもう踊れないんだ 糸の切れたマリオネット

ああ 僕はもう笑えないんだ 首の取れたマリオネット

 

 

君の躰 吹き飛んでゆく 愛する者達を連れてゆく

僕の町が燃えているよ 愛している 愛している さようなら

僕はどうだい どうすればいい 愛とか恋だとか歌っている

君はどうだい どう思うかい 誰かが誰かを殺すよ

君の躰 吹き飛んでゆく 愛する者達を連れてゆく

僕の町が燃えているよ 愛している 愛している さようなら

 

 

そんな夢見て  目覚めた

早く家に帰りたいよ

早くママに会いたいよ

 

 

 

──「複雑な話題にこそ、絶対に自分の体験や立場のなかから語らないといけない。決して何者かの言葉を盗ったり偽ったりしてはいけない。それが深刻な問題であればあるほど、些細なズレでも誰かを裏切るから。人の命を奪うから」という教えを守る時、櫻井さんのこの歌詞に向かう姿勢は、本当に誠実で正しい と私は思う。

 

 

 

胎内回帰

胎内回帰

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13. 胎内回帰

 

Melody あなたの鼓動

Harmony 胎内の爆音

 

愛しているよ 叫んでいる

爆撃機の風が 切り裂いた

愛してます 囁いた

わたしは笑ってそう 飛び立つ

 

ああ  もう一度 ああ  もう二度と

あなたは涙で もう見えない

 

 

ステージで全身を振り絞るように歌いきる櫻井敦司の姿が、まだ記憶に新しい。残酷に時間を刻むように無機質なリズム。そこにやや浮いた生音らしいギターのストロークは、無情から無情へと飛び立つ爆撃機の男をドライに描きたてる。

死は死であり、その先は何もない無である。そう言い切るかのように、容赦ないほどにこの曲の最後はバチンっと終わりを告げる。アルバム『No.0』の終了。

 

 

 

 

 

 

いくつかのインタビュー内容は、こちらの記事から引用させていただきました。

 

 

壮絶なアルバム。である一方で、改めて目を引くのがその纏まりの良さ。

曲順で見ていっても、バンド5人のエネルギッシュなグルーヴで運んでいく冒頭3曲から、5~7曲目にまるっと並んだ星野曲、8~10曲目の今井寿空間、そしてラスト3曲で櫻井敦司が魔王となり少年となり爆撃機に乗って幕を閉じる。若干セルフパロディの域に突入しているかというくらいに纏まりが良すぎる曲配置だ。

このアルバムを作るに当たって今井寿は「難解なものをポップに」「(単に分かりやすくではなく)難解なイメージを強さに変える感じ」にするという荒業を意図していたと話していたが、まさにそれによって「完全なる新境地」を「完全にいつものBUCK-TICK」っぽく聴かせる、或いはその逆に別次元にまで上手に導いてくれるような作品となった。

何かと革新や変化、新境地の凄まじさに目が行くバンドだが、しかし一方での「リスナーのニーズを出来うる限りきっちりと拾おうとする」「絶対に腕を引っ張ってくれる」姿勢の強さもまた、今改めて痛感させられる。

 

 

 

先にも上げたように、BUCK-TICKはこのアルバムで改めて「櫻井敦司の表現力」が大きく取り上げられるようになった。……思えば、最初期のBUCK-TICKが語られるときにはとかく「全員演奏が下手。そしてボーカルの声が弱い」といった言われを受けることが多かった。それこそ『惡の華』や『スピード』くらいまでしか知らないという人にはずっとその印象だろう(勿論その時期はその時期でセンスとアンテナに全振りした凄さがあったわけだが)。

しかし、近年の櫻井敦司は数々の大曲を全身を振り絞って歌いあげ、BUCK-TICKを耳にした者達を圧倒させていた。指先一つにまで神経を張り巡らせてステージを創り上げていた。そして最後まで全力で歌いきり、私達の前から去っていった。そこにいたのは誰にも太刀打ちできない生涯のフロントマンだけだ。

BUCK-TICKボーカリスト櫻井敦司を、私は絶対的な敬意をもって称え続けていきたい。

 

 

 

 

 

 

さて、このページはあくまで「アルバム・No.0の紹介」。それ以上の曲にまで広げるのは冗長なので控えるべきだろう。……しかし、どうしても『胎内回帰』のその後、この作品の真の最後に持ってきたい曲を一つ。

 

No.0ツアーの前半、公演のラストソングという役目を与えられておよそ8年ぶりに披露されていた楽曲。 “無情な死” で終わったかのような『胎内回帰』の後にあの曲が “慈しみの弔い” を付け足して、「No.0」の真のフィナーレになっていたと私は思う。

 

 

 

 

 

 

お願いがあるんだ さよならの季節

神様  夢を

 

夢を見せておくれ 幻でもいい

目覚めの朝 遥か 夢で会えるね

 

小さな小さな君は やがて空になり

大きな大きな愛で 僕を包むよ

 

 

 

改めて、ありがとうございました。