サガスカーレットグレイスとミラーネさんの話

 

 

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ここ2ヶ月くらいどっぷりサガシリーズの現最新作・『サガスカーレットグレイス  緋色の野望』をやっています。

たくさんの仲間が登場する作品で、とりわけてのお気に入りキャラの一人が女修道士のミラーネさん。

 

 

どんなキャラクターなのかと言うと、約80名にも及ぶ味方キャラの一人、豊穣の女神アシュテール神を崇める敬虔な修道士、ゆるふわ食いしんぼキャラ、貴重なヒーラー術師、癒し系。

 

そんな彼女の御姿──メニュー画面の顔グラはと言うと、

 


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この顔だ。

 

第1話でやっつける敵キャラの横にいるやつだろ。

 

 

戦闘シーンではまあ普通に綺麗なお顔をしています。

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なんとなく地味な容姿だなというのもそのとおり。本作の仲間キャラのグラフィックは大半がモブとの色違い──むしろ「村人Aだと思ってたらお前仲間になんのかよ がいっぱい」という “誰だって旅に出れば冒険者” なノリが特色──であり、彼女もまたモブだと思ってたら仲間にできるタイプのキャラクターの一人。

 

 

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色違いさんの例。全体的にエリートな魔術師のグラフィック。

 

 

※ここからはサガスカーレットグレイスのネタバレなり設定情報を含みます。

 

 

 

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ミラーネさんと出会えるのは、山賊たちの領土・ユシタニア州にある豊穣の神アシュテールの修道院にて。不敵な笑みで神への祈りを催促しており、祈ってあげると「星神が与えた試練。神の愛」などと称していきなり神獣をけしかけてくる。とんでもねえ。

 

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そんなこんなでパーティに誘った時の台詞は、直前の凶悪信徒ぶりから打って変わったかのようなゆるふわボイスの「オムレツが大好物です⤴」

大概のユーザーにとってミラーネさんのイメージといえば「ゆるふわ食いしん坊キャラ」だろう。バトル勝利後のコメントはほぼいっつも食事の催促。巨大スライムが現れたら「お菓子みたいで美味しそ〜⤴」。ここだけ触れてるとテンプレみたいな食いしん坊キャラだ。

 

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メニュー画面のひと言テキストは「星神アシュテールは、お腹いっぱい食べさせてくれる素敵な女神さまですよ。」

彼女の出自については一切語られはしないのだが、決して豊かとはいえない荒れた地域で豊穣の女神を信仰していた彼女の背景を思わさせられる。ともあれ彼女と言えば食いしんぼ台詞である。

 

 

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そしてもう一つ彼女を語るポイントが「ヒーラー」。サガスカにおいておそらく唯一かという、最初から回復術を使える術師キャラ。

特に第一主人公的なウルピナ編では序盤の苦しい最中に彼女を仲間入りできるので、彼女の癒しが重宝したという人も少なくないだろう。

その代わり他の術を覚えるのに時間がかかり、またバトルステータスも突出してはいないので最終的にスタメン安定というほどの能力値ではない。それでも苦しい序盤を支えてくれたからこその愛着から、彼女を最後までスタメンにしたという方は多いはず。

 

 

 

と、ここまでなら単純にゆるふわヒーラーさんなのだが、更に印象に残るのはここから。

 

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ラスボス・ファイアブリンガーとの戦いでは全キャラクターにそれぞれ専用の台詞があるのだが、ミラーネさんの言葉はそれまでのゆるふわ食いしん坊からはまた打って変わったような「ファイアブリンガーとアシュテール神の絆、私は、信じています!」という力強い言葉。

後で具体的に述べるが、ラスボス・火の邪神ファイアブリンガーとミラーネの信仰する豊穣の女神・アシュテールの間には恋慕の情のようなものがあったという神話があり、それを背景にした台詞となっている。といっても(特にウルピナ編では)その辺りのことが分かりにくく「いきなり覚悟の強い台詞を吐いたな!」となるくらいが大概なので、純粋にファイアブリンガーに挑む彼女の意志の強さを受け取ってもらえればいい。

 

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そしてエンディングの個別エピローグ。それぞれの後日談が語られるなかで、彼女のその後は 修道院を離れたことを非難され、彼女自身も反省して30年に及ぶお籠りの行(院内謹慎&修行みたいなものか)を務め上げる。その様はもっとも敬虔な修道女として語られ、他の神々の信者からも崇拝され続けた” という内容のもの。

この後日談パートはサガらしくドライなエピソードが多い。その後は冒険をやめて静かに暮らしましたなら良い方で、戦死したり仲間と確執になったり失踪したり、そもそも為政者たちの話を見るとそう遠くない未来に大戦が勃発していることが明確に語られている。他所ならバッドエンドだよというくらいにハードだ。

そんな中で、ミラーネさんの後日談は珍しく偉人的なエピソードが語られている。プレイ中の大半ではゆるふわ食いしん坊だが、それだけでは終わらない強い信念と行動力の持ち主なのだ。

 

 

モブな外身に可愛さ、不穏さ、そして逞しさが乱反射する顔立ち。「突出して強くはないが重宝し愛着がつきやすい」という絶妙なキャラクター位置。最低限のテキスト量でストーリーの想像を膨らませる人物像。まさに「読み物ではなくゲームとして触れているからこそ愛着と理解が深まっていくキャラ」だろう。河津神が「ゲームらしいゲームを作りたい」と語ったサガスカの真髄が彼女一人にもまた宿っていると思う。


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ここでもう少し、彼女が身を置くアシュテール信仰やユシタニア州について目を向けていきたい。

 

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ユシタニア州。設定集によると帝国時代はリゾート地だったが帝国崩壊と共に荒廃化がすすみ、今や山賊達が領主となった「領とは名ばかりの」地域。

 

素人目ながら考えると「略奪や重税で貧窮が進んだから、豊穣の神に乞う信仰が発展したのかな」と思う。しかしここで私達の住む世界とは違うのは、サガスカの世界では「神は実在する」ことだ。旧帝国──サガスカ世界の歴史や文化のあちこちに神の存在が刻まれているように、「神々が存在する」ということはれっきとした事実とされている。しかしそう考えると、では「神の存在の周知」と「信仰」と「地域風土」はそれぞれどういう順番で繋がり合ったのかに幅が出てくる。

 

 

主人公の一人であり、魔女としての知識と経験を持つタリアがアシュテール神について語るシーンがある。

いわく、“アシュテール神は単に豊穣をもたらすのではなく大地の力を吸い取っているのであり、そして大地が枯れたら加護なしでは作物が採れないという風に仕組みづくられているのだ” と。

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もしその話が単なる説ではなく実例を伴った話だとしたら。どこでアシュテールは大地を枯らせたのだろう。廃退や貧困とアシュテール信仰が両立している地区といえば、旧帝国領においてはまさにユシタニア州がそんな地だ。ユシタニア州が「アシュテール信仰の結果、大地の力を吸い取っている地域」の実例なのだとしたら?

「貧困や略奪の結果アシュテール信仰が発展した」のではなく「アシュテール信仰の結果貧困や略奪が起こった」のだとしたら、ミラーネはじめアシュテール修道院の位置づけも180度変わってくる。

 

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ユシタニア州のイベントにて。山賊、海賊、冥魔に集る謎の一味、主人公たち、そしてアシュテール信者達と何つ巴なんだよみたいな資源の争奪戦が繰り広げられている。

 

 

ではアシュテールを讃える信仰の教えや内容についてはどうだろうか。

 

この世界の神話を掻い摘んで語ると、 “世界を創造したのは十二の星神。その星神の下にある火の邪神ファイアブリンガーは、世界に争いを招いたため星神たちに追放された。しかし、ファイアブリンガーが契約を偽ったために百数十年周期でこの地に帰り、騒乱をもたらしている” というのが作中で語られる神話の大筋だ。

 

 

またそのファイアブリンガーとも絡むところでミラーネがよく話す一節が、“恋慕のような情を抱くアシュテール神が、追放されるファイアブリンガーに葡萄を手渡した” というお話。

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(タリアいわく「うぶな女神みたいな話」) 思えばミラーネさんは最初の出会いの時からこの神話を好んでいた。

サガスカ世界の人々はこのような神話たちから教えや社会観を覚えて日々を生きているのだろう。

 

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実は、サガスカの世界にはもう一つ、「語られざる真実の神話」となるものがある。

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それは “原初の神はファイアブリンガーだった。後の神々による争いを見かねたファイアブリンガーは外界から新しい神々を呼び寄せ、この新しい神々が十二星神となり、旧い神達は冥魔となった。だが次第に十二星神は世界の主権を乗っ取ることを画策、ファイアブリンガー追放の契約をとる。そしてファイアブリンガーが世界を奪還しにくることを拒み、人間たちに嘘の啓示を授けた” というものだ。ファイアブリンガー自身(に近い扱い)の台詞も、こちらの神話を前提に読み解いた方がしっくりくる。

 

 

アシュテールは星神の一神である。

 

……葡萄の神話が真実かどうか、アシュテールとファイアブリンガーを巡る真実は(膨大なシナリオ分岐とテキスト量のあるゲームなので断言しかねるが)結局のところユーザーには知りようもない。

 

 

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エリセド義姉さまより、“精霊こそが世界の源泉であり、帝国は星神が反ファイアブリンガーの為に人間たちに創らせたものだ” という真の神話と歴史の裏表を感じさせる台詞。彼女はまた真の神話のこともある程度知っているという。

「神話の認識とは、自分達が存在している世界の認識である」という日本人的には微妙に馴染みにくい議題が、サガスカというゲームを通してダイレクトに体感させられるかのようだ。

 

 

 

 

 

では話を神話から、今生きているミラーネさん一人に戻しましょう。

 

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改めてになるが、ミラーネさんの出自については全く分からない。彼女がいつ頃からどんな理由で、アシュテール修道院に仕えているのかなどは一切語られない。分かるのは食への関心の強さと、揺るぎないアシュテール神への忠誠、アシュテールとファイアブリンガーの神話を愛好しているということだけだ。

 

──ミラーネは真実の神話を知り得たのだろうか? エリセドは知っていることを仄めかしていたように、或いは星神信仰と同時に大冥魔の封印も残っているユシタニア州だから、もしかしたら勘づくところもあったのかもしれない。

彼女のラストバトル台詞「ファイアブリンガーとアシュテール神の絆、私は、信じています!」は、旅の中でいろんなものを見て考えファイアブリンガーと直面した彼女の叫びだったのかもしれない。

……邪神として恐れられているファイアブリンガーへの愛物語を信じているということは、「邪なもの」との絆の在り方も信じているということではないだろうか。山賊たちが牛耳り、廃村が広がるユシタニアにおいて。

 

 

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神話が誤りなら、彼女の生涯も誤りだろうか。教えが正しいから、彼女は誉れ高かったのだろうか。いや、正しいとか間違いだとかを抜きとして、癒しと実りに生きた彼女の旅路や一生に価値はなかったのか? 大地を耕し、水をひき、種を蒔き、世話をし、実りを得、一年の糧を得た。これはなんだ?

神々の真偽の下でたくさんの人間達が、それぞれのドラマを抱えて動き、選択し、誰かに武器を振るい、尚も歩み続け、そして死んでゆく。サガスカーレットグレイスはそんな作品である。


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一つ、趣深い話。サガスカーレットグレイスのエンディング曲『胸に刻んで』は、アシュテール神からファイアブリンガーへの詩なのではないかという話。

なるほどおおよそ恋愛の形をとった詩であるし、またファイアブリンガーに向けた言葉として読める詩だ。「女性が書いたほうが良いだろうということで、佐藤弥詠子さんに歌詞のベースを創ってもらった」という制作話もそれっぽい。

 

 


胸に刻んで - YouTube

 

旅立つ その日だけは 真っ直ぐな眼差しで

手を握り 二人だけの言葉を わたしに託して

 

染まる紅の天(そら)へ 打ち早やむ花弁(はなびら)

たとえ定めでも 行かないで  もう一度  声を聞かせて

 

愛は消えない あなたに託された言葉  忘れない

空の光が消えても その横顔も  その声も  すべてを

胸に刻んで

 

 

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少なくとも、「去りゆく神と残される者」を説いた詩なのだと思う。

 

余談だが、葡萄は実ればそのまま食べられる大地の恵みだという由来から「親切、慈善、思いやり」の花言葉があり、名前はラテン語のvita(生命)が語源ともいわれているらしい。ちなみにちなみにだがサガスカ原作はPS Vita開発ソフト。

 

もしこの詩がアシュテールのファイアブリンガーへの真意をなぞった歌なら……またユシタニア州にいつか平穏が訪れるなら、このあらゆる思惑が渦巻く世界──揺るがされる星神信仰のなかで、この一点だけはミラーネが信じて守ろうとした甲斐も あったのかなあ。

 

そして、この歌が “神が消えても生きていく者の歌” なのだとしたら、ミラーネの心やその生涯にも、そのような “実り” が成って大地に残ることを想う。

 

 

 

 

 

 

 

 

先述のとおり、サガスカーレットグレイスは膨大なキャラクターとシナリオの分岐が散らばった傑作。もしここで私が好き勝手書いていることは正しいのか?と思われたら、或いは他のキャラクターも気になると思われたのなら、是非このゲームを手にとって自分だけの物語を歩んで見ていただけたら、幸いです。

 

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