RYUICHIというボーカリストの稀代な歩み

 

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改めて、RYUICHI河村隆一という人は奇妙な歩みを行くボーカリストだなと思う。

 

92年にバンドLUNA SEAとしてデビューした頃から彼のボーカルについては一定の評価を受けていたという。が、そのスタイルが本当に完成的なまとまりを得たといえるのはLUNA SEAがREBOOTした2010年頃、デビューから20年近くしてからではなかろうか。

 

 


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インディーズ時代からデビュー前後くらいの彼は、シャウトしまくりながら字の如くステージ上をのたうち回る、妙に声が良くて歌が巧い魔人様だった。

それから数年して彼は長髪と装飾を落とし、クールさと繊細で危うい雰囲気(と謎MC)をスタイリッシュにきめたロックボーカリストとしてトップシーンに躍り出る。

しかしその後、ソロ活動を始めるや否やいきなり甘い高音ポップスシンガー・普通に喋るサーファータレントへと変貌し社会的大ヒット──奴隷達を混乱の渦に陥れた。

以降はその甘い歌声とロック的スタイルとの間をジグザグとしながら、更にはオペラ的な唱法をも歌唱力を追究する中で身につけていく。

それらのカオスな変節が一段ひとつに集約されきったように見えたのが、2010年末のLUNA SEA復活における東京ドーム3daysの舞台だろう。

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ダークで攻撃的な色も含めたLUNA SEAの完全復活を経たRYUICHI(一方でおやつはカールのCMソングに抜擢されながら)は、翌2011年には6時間半で100曲以上を歌うというギネス記録を達成する。彼は文字通り世界一のボーカリストになった。

更に2018年1月にはそれを上回る8時間ライヴをも達成(8時間というのは予定時間で、実際は9時間くらい演ってた記憶がある)。この2010年末から2018年という時期の彼はまさに最強のボーカリストのようだった。逆に強すぎてなんだか安定しきったようなきらいもあったほどに。

 

翌2019年1月、突如として肺腺癌除去の手術を受けたことを発表。内々には前年から発覚していた癌の、無事手術を終えてからの発表だった。煙草も吸わなければ不摂生ともまるで縁のなさそうな彼が肺に癌を患ったというのだから、病というものは分からない。

──彼を巡る2018年は、8時間ソロライヴの達成から始まってLUNA SEAのライヴツアー及び2度目のLUNATIC FEST.という大ステージを駆け抜けながら、一方では癌の発覚と肺手術という事態に直面するという、あまりにも激動の一年となっていたと思う。

 

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その後、2020年から始まったバンドツアーがコロナ禍と衝突し、度重なる延期やこれまでにはない規制を敷いた公演内容を要される局面を迎える。幾重もの試練の先、2022年2月にようやくのツアー完走をもって、彼は声帯にできた静脈瘤(微小血管病変)を除去する手術に入った。

 

そして8月この度の「復活祭」──手術から半年ほどでの彼の復帰に至る。

 

 

 

感傷めいたドラマティックなことはあまり書かないようにしたい。その上で一言言えるのは、「この人は本当にとんでもねえ星の下に生まれ落ちたんだな」ということだけだ。

 

かつてその変革の限りでファンを翻弄し続けた彼も、ここ数年はひたすらに一本の覇道を歩み続けるようだった──勝手な物言いだがある種「落ち着いた」きらいもあった──のだが、まるで運命に導かれるように彼はまた試練と変化の渦中へと入ってしまった。勿論それは彼の歌うことに賭け続けるあくなき意思や、どんな逆風でも前へ進む強靭な強さこそがそれを実現させているのだが。

そもそも何故そこまで変化のボーカリストなんだよということ自体が、常に曲世界や歌唱表現、ステージングに対してそこまでせんでもというくらいフルスロットル、INORANをして「0か100しかない男」だからこそのこの波乱のボーカル歴だろう。ラララ誰も止められない。

彼の「過去の自分を取り戻すのではなくて、超えた先に向かっていきたい」という言葉に対してネガティブな思いを私は感じないのも、RYUICHIという歌い手は常に変化の中で歩み続けたボーカリストだという認識があるからだろう。年末に予定されている新たな黒服限定GIGも、「A NEW VOICE」の一環ということなのではないかという気持ちで楽しみにしている。

 

 

人の肉体には必ず死が待っていて、いつまでも最高潮の身体のままではないだろう。しかしこれから先も、RYUICHIは必ず私達を驚かせ楽しませ輝き振り回してくれるだろうという “信頼” がある。彼の歩みとその記録たる楽曲・音源たちが証明しているように。

 

 

 

まあ、改めて彼の歩みを読み返して思ったことを一言に述べるなら、「この男について行かないなんて勿体ないことはない」って感じかな (笑)。

「生きた人間の歩みは、どんな小説よりも豊かで奇妙で面白い」と ここまで指し示してくれる人もそうそういないのだ。


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Luna sea - Wish (Acoustic Ver.) - YouTube