藤井麻輝最後のライブと銘打たれた公演『棘』に行きました。
氏のライヴに参加するのはルナフェスを除けば初めてで。恐ろしいほどの轟音と暗黒のステージだとは聞いてはいたけれども、自分が参加したことはありませんでした(minus(-)のチケットは3回くらい逃した)。
最後のライブに先立って、
月初めから時間を見つけてはSOFT BALLETを、
ライヴの前日にshe-shellや細かい活動の楽曲群を、
そして当日の移動にSCHAFTと睡蓮(SUILEN)を
改めて聴き直しました。
(SCHAFTと睡蓮が半日に収まってるのはしょっちゅう聴いてる2組だからですね。あともう時間足んなかったからです。無計画。)
さっさとライヴの話をというところですが、振り返りをしてきた中でふつふつと湧いてきた思いも込めて、自分が好きなフジマキ音楽たちのことなどを勝手ながら書いてしまいたい。
彼の存在を知ったのは……ルナフェス?……いや行方不明時代の記憶もあるので、やっぱりSCHAFT経由だったか。そこから当時の彼の最新活動だった睡蓮を買ってみたのが入りだったと思う。そしてSOFT BALLETも聴き……
Soft Ballet - WHITE SHAMAN (TV) - YouTube
ソフバ関連なんか私の口から語らずとも当時を知る人達の間で永遠に語り継がれているものですが。あ、一応書き置くと全然動いてない人がフジマキこと藤井麻輝です。
1989年デビュー。EBM、ニューウェイヴ、当時のメジャーシーンで文字通りの最先端だったインダストリアル…………そして御三方の超個性。楽曲を仕上げていた森岡・藤井を中心に語られることが多いが、独自の詩世界はもちろんエレクトロサウンドに強い熱・バンド的肉感をもたらした遠藤のボーカル。また、膨大なライヴアレンジを用意しその大半が音源化されていないグループだったのも特徴か。
文字通り3人の天才がここから出発していった。
フジマキが手掛けた曲で個人的お気に入りの一つ、『SAND LÖWE (BEAT MIX)』。
彼の音楽史でも転換点だったのではないかと思う、『VIETNAM』
VIETNAM / SOFT BALLET - YouTube
ややこしくなるので上げないけど『ESCAPE』はやっぱりめちゃくちゃ良い曲だと思いますよ (笑) 。
「早すぎた」と言うよりも「個性的すぎた」のではないかと思う。盟友的だったBUCK-TICKやLUNA SEAに比べても「明確にソフバをなぞってるよね」という後続が基本思い当たらない。V系というジャンル形成に(確実な影響を及ぼしまくりつつも)ギリ巻き込まれなかったとも言える。
『DEEP-SETS』 「SOFT BALLET時代の曲でお気に入りのものは?」と聴かれてフジマキが答えたのがこの曲。ノイズやアンビエントに特化していた彼のイメージからするとちょっと意外な選曲だが、後の睡蓮やソロ期minus(-)を思えばなるほどかな。
その傍らBUCK-TICKの今井寿とユニットを組み、90年代最も突出したユニットを生み出してしまう。
SCHAFT
邦楽のデビュー10年にも満たない若手2人が、英インダストリアルの名手Raymond Wattsを邦楽チャートに連れ込んでアルバム・ツアーを敢行したのだ。時は1994年、その事件性は察してあまりある。あまり前時代の洋楽コンプレックスを受け継ぐものではないかもしれないが、しかし今井・藤井の功績を語る上で100%避けて通れないところだろう。
楽曲は──ある種まだインダストリアルロック然としたナンバーに振っていた今井&レイモンドに比べて、フジマキの側はより多彩な楽曲を提示していたと思う。アルバム『SWITCHBLADE』をより混沌たらしめているのはフジマキ担当曲によるところが大きい。まあそれこそレイモンドとの対談でNINを「あんなのポップミュージック」と揶揄ってたという男がそこに専念しようとはしないか。
そういえば妙に有名なこれもフジマキ担当曲
Shaft-Broken English - YouTube
さてそんな時代を冠して然るべきだった彼だが、ソフバ解散後はしばらくあまり表に名前の出ない活動が続く。RYUICHIとJAPANトリビュートに参加したり、RYUICHIとNav Katzeのアルバムに参加したり、河村隆一のアルバムに楽曲参加したり……
RYUICHI多いな!
当時も今も大分意外な組み合わせじゃないのか。あれか、「ミスター・フランク・シナトラ(スティーヴ・リリーホワイトのRYUICHI評)」だからなのか。なんというか “歌” に超時代的な深み、熱みを求めてるイメージはあるかな。
とりあえず私は長年フジマキへ「ボーカルに冷たい」という印象を抱いていたが、それは大きな勘違いで逆に「ボーカル(というパート)を大事にしすぎている」のではないかと色々聴き返していて思ったり。
フジマキが隆一の弾き語りを絶賛してトラック作ったという怪話のある『RED』。僕は結構好きです。
櫻井敦司ソロの『雨音はショパンの調べ』カバー。言うまでもなくベストナンバー。
ATSUSHI SAKURAI | I LIKE CHOPIN 雨音はショパンの調べ | SUB ESPAÑOL - YouTube
時代を戻して、1999年にはshe-shellというユニットを開始する。
シングル2枚だけ。渡真利愛ボーカルの1枚目が4曲(JAPANトリビュートにも同じ面子で参加)、MIZUボーカルの2枚目が3曲。
めちゃくちゃ良いんだけど、いかんせんもうプレミア価格でしか出回ってないので持っていない(もっと安い時に買っとくべきだった)。自身の履歴として名前出してくれるなら再販かせめてサブスクだけでも出してください……しかし本当いいな……。
SUPERSCHAFTRACK / Zilch - YouTube
hide、今井寿、藤井麻輝。SCHAFT。zilch。スーパーシャフト。
SUPERSCHAFTRACK。
再始動SCHAFTの頃の雑誌インタビューで、hideがフジマキに「SCHAFTが邦楽から出てきたから、zilchは洋楽から出したんだよ」と言っていたと読んだな(そんで2年もリリース遅れたのか……)。そしてhide亡きあとのzilchのラストアルバムには藤井麻輝&芍薬 = 後の睡蓮コンビが参加している。
睡蓮(SUILEN)
もー心底好き。本当は毎日睡蓮の話していたいくらいには好きなんですけれども。フジマキサウンド歌謡+和的情念。2014年の復活の際にも「睡蓮は僕のライフワークなので続ける」と言っていた(そして続いてない)。最も純粋なフジマキのやりたいことがこれなのかなと思っていたのだが。
睡蓮を持ってない人類は全員買って聴いてほしい。プレミア価格化始まっとるぞ。
睡蓮貼りはじめたらキリないぞ。
和なイメージが強調されがちだが結構それは芍薬のセンスによるところが多く、フジマキ的には和洋折衷というかわりと無国籍なものを目指してたんじゃないかと思う。こう、「ザ・和の音楽を作りました」とは根底から違うものだよねというか。うまいこと日本の “霊” の部分だけを掠め取っていってるというか。
と活動を継続していたフジマキだが、2011年東日本大震災を境に消息不明に。復帰後の話によると「今やるべきなのは音楽ではない。」と思い建築関係の仕事に従じていたらしい。……この時期を思えば、藤井麻輝の新曲が聴けてライヴに行けるということ自体奇跡であり大サービスだったのかもしれない。
というか、『愛と平和』然り、超ドライなキャラでやってるし曲にメッセージを込めたりなんかはしないけど、めちゃくちゃ敏感で繊細なんだよな。市川哲史が一時期死にそうだった頃の話然り。
さて、大震災から3年経った2014年、突如藤井麻輝はSOFT BALLETの盟友森岡賢と共にminus(-)を組んで復活する。
5. b612(ver.0) - minus - YouTube
フジマキのルックスはすっかり女神転生の黒幕みたいになった。二人で楽曲を持ち合わせてたもんだと思ってたけど、基本モリケンが持ってきた曲をフジマキが仕上げる形であったそう。
元々は音楽活動としてライヴをやるために始めたというユニット。しかしそれは森岡賢の急逝の後も継続され、藤井麻輝の属する屋号として昨2021年まで活動した。
2015,16年にはあのSCHAFTも復活。めちゃくちゃ勢力的だ。
SCHAFT- The Loud Engine - YouTube
流石に20年ぶりのユニットがあの頃の音楽のまま帰ってくるわけもなく、よりバンド色を極めた新生シャフト。
今井寿&藤井麻輝に、上田剛士、yukihiro、YOW-ROWとかいうぼくがかんがえた最強の国内インダストリアルみたいな面子で帰ってきた。いつかのライヴではフジマキがhideのギターでステージを演っていたそうな。
20年前の『SWITCHBLADE』は今井さん曰く「自分たちに向けて作っていたところが大き」かった。この新生SCHAFTをかつてよりポップになったと言ってしまうならその通りだろう。より外へと発信するサウンドに仕上がったのだ。
さて、一人になってしまったminus(-)は、実質藤井麻輝のソロユニットとして発展していく。ドローンやアンビエントな曲が目立つ『R』と、石川智晶をボーカルに迎えた暗黒劇『C』へ。ソフバで後ろにいる全然動かない人だったフジマキはフロントでボーカルをとる人になっていた。
minus(-) / 「C」Official Trailer - YouTube
こうして辿ってみると、ソフバとSCHAFTの攻撃性に隠れがちだが、私にとっての藤井麻輝とは繊細なノイズで最高級の歌モノを提示する人だったかな。
さて、長い前フリになってしまいましたが、2022年2月5日。
藤井麻輝、最終公演
— 昔の友人は「龍」と呼ぶ様だ。 (@babaryudaddly) 2022年2月5日
「麻輝 / 棘」、終了。
客席最前列前にスーパーローのスピーカーがこれだけ置かれ、客席全体に地鳴りのごとく低音が響く暴力的な音響システムでしたが、奇跡の様に音の分離が良かった。きちんとライヴ用のトラックを事前に整理して来る藤井さんの真骨頂だったのかもしれません。 pic.twitter.com/DgVf5utJwI
マイブラとどっちがスピーカー多くてどっちが音でかいんだろう……
轟音。文字通り内蔵が揺さぶられるほどの轟音。しかしそれでいて鼓膜が破れそうな感覚はない、低音の波動と音の細分を極めた轟音。そして暗闇。10〜20ほどの小さな光の粒がステージ上を浮遊しているだけの、氏の顔も遠目には(真ん中くらいの席だったけど)ほぼ見えないほどの闇。そして一切の曲間なく進行していく12曲。
なんか、嵐の夜に張りぼて小屋にいるようなシチュエーションだなと思った。暗闇の中で音の一つひとつが衝撃になって自分に襲いかかる。安心のない、しかし闇の美に包まれた1時間超。
minus(-)のチケット何回も取り逃したの心底後悔した。
2022/2/5 藤井麻輝「棘」SHIBUYA LINE CUBE
— 猫又 (@13thregen) 2022年2月5日
01.カナシミ
02.内側に向かう
03.それはもはや沈黙として
04.この話の続きを聞きたいか
05.drop
06.左手
07.ツバメ
08.柘榴
09.daylight (E)
10.Spine
11.ヨハネインザダーク
12.夕鶴会#藤井麻輝#minus
12曲中7曲睡蓮じゃん……。確かに、純粋に藤井麻輝のやりたいものと考えれば札はソロ期minus(-)と睡蓮になるのか。
これが、私の見た唯一で最終形態の睡蓮になるのだろうか。
完全に一つの組曲のようだったのでどの曲がどうだと独立して語れるものではないが、世界終末の日みたいになっていた大破壊の『左手』と、「原曲が分かるのに分からない」状態な 全てが灼けて消えていくようなラスト『夕鶴会』。
そしてこの曲目が、SOFT BALLET『DEEP-SETS』話から始まって私が気にかかっていた藤井麻輝の志す音楽観への、答え合わせに触れたような感覚だった。
ともあれ──本っ当に最高のライヴでした。本人の意思が最優先なのは当然として、しかしあのステージがなくなってしまうのだとしたらそれは本当に文化的損失だ……。
夕鶴──大元の戯曲に触れたことはないが、高く売れる鶴の織物という金に取り憑かれていく人間たちと、そうではない価値基準で己の身を削りながら織物を織る鶴の対比に基づいた話だとか。
最後の織物、ありがとうございます。